2009年5月16日土曜日

モダンタイムス

漫画のように薄っぺらな小説と思いきや、貢をめくる度に胸が重くなる。
情報が支配する現代社会に向けて、警鐘を鳴らした小説。
伊坂幸太郎の「モダンタイムス」。

魔王の続編である本作は現代から50年後の設定。
システムエンジニアの主人公が請け負ったサイトに、何の検索キーワードから辿り着いたかを解析するプログラムを発見してしまう。
そのキーワードとは、数年前に殺傷事件が起きた中学校の名前と、その中学とは関係性が見出せない数々の単語。
そのキーワードを打ち込んだ人間はあまりにも酷い目にあい、命を絶つ人間までが発生してしまう。
片や、キーワードの事件を機にして、のし上がったカリスマ首相も現れる。
殺傷事件の裏に潜む国家の陰謀と、それさえも作り上げてしまった社会のシステムに挑む。


今まで以上に平易な文体に、あまりに非現実的な漫画的なお話。
だけど、不穏な空気感と見事では言い切れないストーリーは、やはり魔王と似通っている。
そして、ヒシヒシと迫ってくる恐ろしさに似た危機感も。
この小説も魔王と同じく伊坂さんがどうしても伝えたかったんだろうな。


無自覚になるな。と。

この社会はとてつもなく大きなシステムで、全てを見渡している人間は誰もいない。
皆が歯車に過ぎない。たとえ、一国の首相でさえも。
それが悪いという話ではない。
ただ、歯車が噛み合った結果、何が生み出されているのかを考えなければいけない。

残念なことに、どんなにもがいても、この大きなシステムからは抜け出せない。
それが国家というものだから。
国家だけではなく、この社会も、会社もそう。
その中で、一人一人がこの社会とどう接していくかを考えなければいけない。
あまりに途方もない話ではあるけれども、順応するのか、逃げ出すのか、あるいは戦うのかを。
だけど、ここで忘れてはいけないことがある。

もっと小さな目的のために人は生きている。
それは、個人の小さな幸せ。


何か伊坂さんの気持ちを汲み取ろうと思って書いたのですが、陳腐な表現になってしまった。
ごめんなさい、伊坂さん。

この小説、素敵だなと思った言葉がたくさんあった。
その中で、個人的に何かよいなと思った台詞。
「人間は情報ではできていないのよ。血とか筋肉とか骨じゃない?」

0 件のコメント: