2009年1月28日水曜日

旅人 ある物理学者の回想

日本人初のノーベル物理学賞を受賞された湯川秀樹氏の自叙伝「旅人 ある物理学者の回想」を読みました。

少し読んでみて、まずは目を引くのが彼の文才です。
情緒的と言うか寂寥感が滲み出ながらも、その裏側にある確固たる自信が感じられる文章です。
研究者の方が書く文章というよりは、日本文学に近いような気がします。
読んでいて、非常に気持ちがいいです。

それもそのはずで、小学校に入る以前から漢文の素読をやらされており、小学生の頃は孟子・老子を中心に文学の世界に引きこもっていたそうです。

私がこの自叙伝から印象的だった箇所を引用させていただきます。

それにしても、私はやはり数学者にならなくてよかったと思う。私はどこまで行っても、思考の飛躍に最大の喜びを発見する人間であった。水ももらさぬ論理で、たたみこんでいく手順は、私の関心の中核ではなかった。それにまた、理論物理学者として、理想と現実の間の矛盾に悩むのが、私の性にあっているようにも思われる。

この文章は物理学と数学の分岐点にたたされた時を振り返って語っています。
私からすると、理論物理学というのも数学と同じく、完璧な論理によって証明するものだと考えていましたので、意外でした。
それと、まさか研究者の方から思考の飛躍という言葉がでてくるのことも。
独創性や人間性を重んじる、湯川氏らしい考えですね。


何か、自分の仕事を一つ仕上げた上でなければ、外国へ出かけたくなかった。研究のテーマは、自分でさがし出す。そして自分の力で、やれるとこまでやって見たい。何度失敗してもよい。もし成功したら、その上で外国の学者とも話し合おう。
(・・・中略・・・)
私は自分の研究に、知・情・意の三つをふくむ全智全霊を打ちこみたかった。

この文章は湯川氏が今の私と同じぐらいの年齢の自分を振り返り語っています。
自分の専門に関してさらりと、「やれるとこまでやって見たい。全智全霊を打ち込みたい。」と語っていることに、心底尊敬します。
誰もが考えることではあるでしょうが、言葉にできるほど強い意志はなかなか持てません・・・。
私とはほど遠い存在ですが、この言葉だけでも心の中に留めておきます。




最後に、湯川氏のインタビューを貼り付けておきますので興味のある方は観て下さい。



「独創できなものは初めは少数派。多数派のものは独創的でもなんでもない。」
「自分の力で新しい心理を発見しよう。それが自分の人生。」

素晴らしいことを語っておられます。感銘を受けました。

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