2009年8月22日土曜日

ドーン

平野啓一郎さんの新刊、ドーン(DAWN)。
日本語にすると、夜明け。


小説の舞台は20年後のアメリカ。
情報が洪水のように流れ込み、全国民により監視を可能にしたネットワーク社会。

佐野明日人ら宇宙船「ドーン」のクルー達が、人類で始めて火星へ到着する。
しかし、アメリカの大統領選を揺るがす事件が、ドーンの中で発生する。
人類の希望であったはずのドーン、英雄であったはずの佐野明日人が大衆の好奇の的となり、様々な陰謀に利用されることになる。
情報が錯乱し、混沌とした社会の中で如何に生きていくかという真摯に向き合った作品である。

この小説におけるキーとなる考え方の1つに、分人主義という考えが提唱されている。
分人主義とは、家族や友人、会社など会う人によって、個人を分割した分人(ディヴ)が形成されると言う考え。
分人はキャラを演じるという表面的な操作ではなく、相手との共同作業により初めて形成される人格のことをいう。
よって、ある人に対しての個人とは、その人の個人全体ではなく、あくまでもその人向けの分人を指すことになる。

それの良し悪しは分からないが、様々な分人を生きることで、本来は分割不能な個人がバランスを保たれているということは現代社会においても同様だと思う。

友人と久々の再会の前に「彼の前の自分はどんな自分だったのか」と思うことや、「会社での自分は果たして本当の自分なのか」と思うことがある。
どれもキャラを演じているつもりはないが、確かに相手によって変化している自分がいる。
でも、やはり妻の前での自分、親の前での自分、兄弟の前での自分、友人の前での自分、後輩の前での自分、会社での自分、そのどれもが重要で、それがあるからこうやってバランスをとりながら生きていけて、今の自分があるのだなと思う。
この考えを読んでから、ふとそんなことを考えるようになってしまった。

小説の筋からは、大分それてしまいました。

本作は、いつの時代もそうなのかもしれないが、現代いう時代の複雑さを存分に感じさせてくれる。
だけど、それでも希望もあるし、どんなにも絶望的な状況からも再起すこともできる。
フィクションだとは分かっているが、この話を信じていたいと思えた。

今日と明日をつなぐ物語。
一筋の光を差し込んでくれる物語。

そんな物語がある限り、物語は続いていくのだと思う。

0 件のコメント: